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味覚の忘却: ベトナム料理の伝統的味覚の断絶 [料理]

「味覚の忘却」

ファム・ドゥック・ナム他著『おいしいベトナム料理』めこん より

【コラム:食文化から見たベトナム】の概要
ベトナムは、長きに渡り、隣国の中国から、文化、思想、政治体系、法律等の分野で強い影響を受けた。約100年間、フランスによる植民地支配も経験したが、全体的には中国の影響がベトナム人の生活に浸透している。

革命と戦争の連続であった現代史の中で、中国やフランスの影響を受けたベトナムの食文化・味覚が危機にさらされた。1930年に始まる共産党のフランスへの抵抗運動でフランスが撤退。今度は、共産主義の拡大を防ごうとするアメリカとの確執からベトナム戦争が勃発、1975年まで続いた。今度はカンボジアへ侵攻、さらに中国との戦争と、戦時経済体制が80年代半ば過ぎまで続いた。

ベトナムの食卓には欠かせない「つけダレ」の重要な役割がこの時期に忘れられてしまった。「ニョクマム」を使ったつけダレは料理の引き立て役として、各家庭で水や砂糖、酢、唐辛子などを混ぜてその家の味を作り上げていた。しかし、計画経済のこの時期、手に入る「ニョクマム」をはじめとする食材の品質が劣化しただけではなく、そうした味が当たり前という味覚を人々に定着させてしまった。戦争の連続と共産主義体制は、「ベトナム料理の伝統的味覚」の継承を断ち切り、大多数の人々の味覚を鈍化させてしまった。

しかし、かつての地主階級や知識人層の一部の人々が、伝統的な味覚を細々と守っていた。彼らは政治的に疎んじられても、文化的教養、礼儀、習慣を忘れずに伝統的な生活スタイルを変えなかったず、経済的に裕福でなくても、食材選びや料理ごとに味付けが異なるつけダレを使い分ける伝統的な食文化にこだわったからである。


ベトナムでは戦争や共産主義体制が「味覚の忘却」を引き起こした。「味覚」は決して不変ではなく、失われることもありうるものなのだ。何をおいしいと感じるかは、経験の積み重ねであって、その経験が違えば、その帰結である「味覚」は当然変わってくる。守ろうと思って守らないと忘れられてしまうもの。

だからこそ「食育」が必要なのかもしれない。

大好きなベトナム料理の、ちょっと悲しい歴史を知って、いま自分が平和に生活し、おいしいものを選び口にすることができる幸せことのありがたみさを感じた。でも、今私が持っている「味覚」は、本当に日本の伝統的な「味覚」を継承できているのだろうか? 


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